エキゾチック原子のカスケード過程
LOGO エキゾチック原子の生成から消滅まで

Physics

通常の原子において、原子核の周りを回っている電子を電子より重い負電荷粒子(以後”X - ”と書く)に置き換えたものを総称して「エキゾチック原子」と呼びます(下図参照)。物質中にX - を打ち込むと、X - は徐々に減速し、やがて原子軌道に捕らえられてエキゾチック原子を生成します。この時の軌道のサイズは、通常の原子のボーア半径程度と考えられています。これはエキゾチック原子にとっては主量子数 n の非常に大きな高励起状態であり、この後様々な過程を経て低い軌道へ遷移していき、やがてX - の原子核への吸収、またはX - 自身の崩壊によって消滅します。

エキゾチック原子とは

この生成から消滅までの一連の過程をカスケード過程と呼びます。例として、液体水素中のエキゾチック水素原子のカスケード過程の概略を下図に示します。一般に、原子核の種類や物質の状態によってカスケード過程の振る舞いは異なっており、非常に複雑な過程であるために、未だよくわかっていない部分が色々あります。我々はこのカスケード過程に関して、計算機を用いたシミュレーションを行い、不明な部分を理論的に明らかにしようとしています。

液体水素中でのカスケードの概略図

エキゾチック原子から放出されるX線を用いて、

・X - と原子核の間の強い相互作用の強さを測る
・X - の質量を精密に測定する
・原子核の広がりの分布を調べる

等の応用があります。また、μ - の場合はミュオン触媒核融合、K - の場合はハイパー核生成などとも密接に関連しており、これら諸分野への応用を視野に入れた研究も行っています。


<カスケード計算結果の例>

左:π中間子水素原子が消滅する瞬間の運動エネルギー分布、 右:K中間子水素原子のX線収量のターゲット密度依存性
計算結果の例1

ガスターゲット中のK中間子窒素原子において、電子がいくつ周りに付いているかをK中間子の軌道毎に計算した結果
計算結果の例2